メルマガ48号 宮本節子『AV出演を強要された彼女たち』(ちくま新書)の紹介


 PAPSに寄せられるAV出演強制の被害相談に対する支援活動に、スーパーバイザーとして深くかかわってこられた宮本節子さんによる本が先ごろ出版されました。もう読まれた方も多いのではと思いますが、まだの方はぜひお
読みいただきたいと思います。

 タイトルは標記のとおり。出版は、優れた新書を多く出してきた「ちくま新書」(筑摩書房)です。まず、この新書シリーズの1冊として出版されたことが素晴らしいと思います。多くの読者の目に触れることは間違いありません。また、本書はこれからどんどん全国紙・雑誌等の書評に取り上げられることでしょう。それは、単に名の通った新書として出版されたからではありません。本書が紹介している「事実」の持つ圧倒的な力、そしてそれを見事に文章化した著者の筆力が、書評者の関心を引かないわけがなく、かつ多くの読者を獲得しないはずがないと思うからです。

 さて、本は2部構成になっています。第1部は「アダルトビデオに出演させられてしまった彼女たち」。PAPSがこの間、相談支援にあたってきた無数の被害者の中の「Aさん」から「Eさん」までの「5人」が代表的・典型的な事例として、個人が特定されないように類似の例を混ぜ合わせて紹介されています。第2部は「なぜ契約書にサインをし、なぜそこから抜け出せないのか」。なぜ被害にあった女性たちは、スカウトから始まって、望んでいないAV出演を契約し、実際に撮影に参加し、そこから抜け出せなくなるのか。その「謎」、女性たちを巻き込むメカニズムが、AV業界の構造、業界側のテクニック、被害者側の心理などから、とても説得的に分析されています。加えて、支援のプロセスと方法、さらにはAV産業の構造や、被害者が結ばされる契約書の紹介と分析までが書かれています。

 第1部で紹介されている「5人」の被害者たちは、「代表例」「典型例」とされています。それぞれどういうものなのでしょうか。強姦して屈服させられた例;芸能人になりたいという夢に徹底的につけ込まれた例;18歳未満でスカウトされ20歳以上の成人になるまでさまざまな理由をつけてつなぎ留められて撮影に持ち込まれた例;家族や彼氏が介入して相談につながった例;自分の意思を明確に伝えることが苦手で強引に事を進められた例。これらの事例が、類似ケースを取り混ぜながら、臨場感あふれる筆致で再現されています。

 しかし、第2部の分析こそが、本書独自の本当の意義かもしれません。第1部に書かれた被害者支援の経験を踏まえ、なぜ本人が望んでもいないAV撮影に応じざるを得なくなるのか、その解明こそ、困難な作業であると同時に喫緊の課題だからであり、その大事な分析はだれにでもできるものではないと思うからです。

本書の分析は、全体において説得的です。詳しい内容は実際に本書を読んで
いただかねばなりませんが、ここでは紹介者のフィルターを通して諸要因を紹介すると、
(1)契約書や法外な違約金、借金による拘束・脅迫、
(2)親や友人等にバラすという脅迫、
(3)暴行や威圧、
(4)虚言、甘言、欺もう、錯誤の利用、
(5)AVに関する女性の無知・情報格差の利用、
(6)羞恥心、無力感等の利用、
(7)経済的困窮の利用・・・・。
挙げていくときりがありません。

それにしても本書の分析を読んで驚くのは、AV強制被害の発生メカニズムが、他の性暴力のメカニズム──強姦やセクシュアル・ハラスメントなど──と驚くほど似通っていることです。むしろ、AV強制被害だけにみられる固有の強制メカニズムは、契約書の存在や法外な違約金を除いて、ほとんどないのではないか、とさえ思わされます。

以上のように、本書は、PAPSが取り組んできたAV強制出演被害の相談支援活動にがっぷり四つで取り組んできた著者による、被害実態の臨場感ある紹介と、被害が発生するメカニズム、諸条件の全般的な解明を行なった、これまでに類書のまったくない貴重かつ重要な書物です。この本を書くことのできた著者が、片手で数えられるほど小数しかいなかったAV強制被害者の支援者の中にいたことの幸運さに思いを致さずにはいられません。この本の完成と出版を心から祝福し、著者に感謝すると同時に、これからは本書の普及に努めたいと思います。

PAPSの支援活動によって明らかになってきたAV出演強制の実態。そして、それがこうした優れた本として世に問われたこと──これらは、AV業界にとって、確かに打撃ですし、AV漬けになっている社会(の支配的男性たち)にとってもちょっとした衝撃だったでしょう。だからこそ、AV産業の擁護者たちは、業界維持のための自浄努力に一定取り組み始めたようですし(「AVAN」の活動)、強制出演問題をごく少数の例外的事象として矮小化する発言をいっそう強めてもいます。

AV漬けになった男性社会と、それに支えられたAV業界は、しかしこれきしのことでは揺るがないでしょう。今後の課題として思うのは、被害相談支援活動を通じて、AV強制被害が本当に例外的事象に過ぎないのかどうかの事実を解明していくことがあるでしょう。それに、見方によってはいっそう解明が困難なAVの「消費被害」(AVが性暴力・性犯罪の原因になっていること)と「社会的被害」(AVが女性差別、女性の二級市民化を促進していること)についても、これを機会に議論を深めたいと思います。

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