「公人による性差別をなくす会」の抗議文
森美術館による性暴力展示に対しては、私たちの会のみならず、他の諸団体、諸個人からも多くの抗議文が送付されています。私たちは、了解を得た上で、他の団体および個人による抗議文も随時掲載していきます。
ここでは、石原慎太郎元東京都知事による「ババア」発言を追及するために結成された「石原都知事の女性差別発言を許さず、公人による性差別をなくす会」による抗議文を掲載します。
「会田誠展 天才でごめんなさい」への抗議と展示中止の申し入れ
森美術館館長 南条史生 様
2013年2月18日
石原都知事の女性差別発言を許さず、公人による性差別をなくす会
私たちは、政治家、政府高官など公人による性差別発言の撤回と謝罪を求め、そのことが人権侵害であるという社会的認識を広め、差別発言を規制する枠組みやシステムをつくろうと活動をしています。
私たちは、貴館が現在展示・公開している会田誠展について、女性に対する差別・暴力を助長し、暴力の社会化を容認するものであると考え、展示中止を求めます。
特に、「犬」とタイトルが付けられた一連の作品は、女性の尊厳を傷つけ踏みにじるものです。
それは、全裸の少女の手足が切断され、首輪につながれ、顔には微笑みが浮かんでいます。少女に傷害を負わせ、従わせ、しかも、その事態を喜んで受け入れている表現は、みる者の心身に強烈な痛みを感じさせるものでした。手と足を切り落とされる痛みをはじめ、これまでに凄まじい暴力を受けた結果の従順と微笑なのだろうという想像が駆け巡り、二次受傷とも言うべきものに悩まされました。
「18歳未満お断り」とされるエリア以外にも、若い女性たちがミキサーにかけられ、血液の色で染められているものや、幼女から高齢女性まで複数の女性の性器を拡大し陰毛の形状を描いたもの、「愛ちゃん盆栽」と名付けられた盆栽の枝先に無数の少女の首がぶらさげられているもの、首をはねられたり胴体を切断されたりした少女たちが微笑みながら乱舞している群像などが展示されています。美術館の売店には会田誠展のカタログや「ミュータント花子」というポルノ漫画が販売されています。
これらの作品に登場する少女たちは、微笑みを浮かべ、苦痛を表現することすら許されない存在として、「黙って笑っていろ」と従属を強いられる存在として描かれています。これは、少女や女性を対等な存在ではなく性的に従属させ、支配するという価値観を肯定するものであり、子ども虐待、女性に対する暴力であり、障がい者を侮蔑し差別するものです。このような価値観は国際社会では容認されないものです。
国連女性差別撤廃委員会は、女性差別撤廃条約に基づき日本政府に次のような勧告を出しています。
「委員会は女性や少女に対する強かん、集団強かん、ストーカー行為や性的虐待を売り物にするポルノ的なビデオゲームや漫画の氾濫に反映されているような性暴力の常態化を懸念する。」(2009年総括所見35項)
また、「子どもの売買、子どもの売買春および子どもポルノグラフィに関する子どもの権利条約の選択議定書」(2005年日本批准)は、「児童ポルノとは、現実のもしくは疑似のあからさまな性的行為を行う児童のあらゆる表現(手段のいかんを問わない)または主として性的な目的のための児童の身体の性的な部位のあらゆる表現をいう」と規定し、このような「児童ポルノを製造し、配布し、頒布し、輸入し、輸出し、提供しもしくは販売し、またはこれらの目的で保有すること」を刑法で罰するよう求めています。
貴美術館が「現代美術の重要なアーティストを日本および世界に紹介することを一つの使命」とされるのなら、当然このような国際法と国際人権条約に則った活動をされるべきでしょう。
今回の会田誠展が、このような国際的常識に反したものであることは、貴美術館が展示物の一部を隔離せざるをえなかったことに示されています。貴美術館による「みなさまへ」と題するメッセージは、会田作品を「彼の作品は戦争、国家、愛、欲望、芸術などについて、しばしば常識にとらわれない独自の視点を開示しています。」と述べています。このメッセージが会田作品のメインテーマである「性」「美少女」などに言及していないことはまさに問題の焦点を隠ぺいする意図的な言辞であると言わざるをえません。会田作品における「美少女」をテーマとする性表現は、「常識にとらわれない独自の視点」どころか、日本の巷にあふれる性差別・性暴力表現そのものです。日本は「ポルノ大国」として世界から指弾されています。
私たちは、前石原慎太郎都知事から、「〝女性が生殖能力を失っても生きているってのは、無駄で罪です〟って」と言われ訴訟を起こした経緯がありますが、その後も、女性を「産む機械」と表現するなど、公人による暴言が続発しています。社会全体を覆い始めた暴力に不安と恐怖と憤りを覚えていますが、会田誠展の作品を目にして、文化の一端を担う美術界でも暴力容認に拍車がかかっていることを思い知らされました。文化も社会がつくりだしたものだとしても、暴力や差別を容認・肯定することで生み出されるものはさらなる暴力や差別でしかありません。
貴館は私立美術館であっても、教育、学術、文化の発展に寄与することを目的とする博物館法のもとに設置されている施設です。その社会的な影響力ははかり知れません。特に、今回の入場券は、ビルの展望券またはプラネタリウムとセットになっているため、子ども連れもあり、これから春休みを迎え、子どもたちは増えていくことが予想されます。
公共性をもつ美術館で、差別・暴力を肯定・喚起させる作品を展示することは、文化としても暴力を容認し、社会の暴力化を後押ししていることにほかなりません。
以上、私たちは、貴館が開催している会田誠展に抗議するとともに、少なくとも「18歳未満お断わり」部屋に展示されている作品の展示中止を求めます。
なお、以下の点について質問します。展示中止の申し入れへの回答と合わせて2月末日までにご回答いただけるようお願い致します。
(1) 憲法で保障されている「表現の自由」には、他人の人権を侵害する自由は含まれていない
と私たちは考えますが、貴美術館はどうお考えですか。
(2)貴美術館のメッセージに言う「法に抵触しない限り」とは、具体的にどのような法律を指していますか。
(3)会田誠展における「18歳未満お断り」部屋と他のエリアの選別の基準はなんですか。
この質問への回答は国内外に公開することをお断りしておきます。