ポルノは、その制作と流通の過程で被害を起こすだけでなく、制作された物を消費する家庭や職場、さらにはネット世界などでも被害が生じていますし、あるいはポルノの消費の結果としても被害が生じています。
家庭や職場やネットを通じてのポルノの押しつけ
ポルノ被害は、家庭や職場のような身近な領域でも生じています。ドメスティック・バイオレンスに関する各種の調査を見てみますと、夫婦や恋人のような親しい間柄で、ポルノを無理やり視聴させられたり、ポルノで描かれているような行為を強要されるという事例がかなりの割合で報告されていることがわかります。
また、アダルトビデオで描かれているようなセックスの仕方が普通だと男性が思い込んで、女性の身体や女性器を乱暴に扱ったり、「顔射」のような侮辱的行為をパートナーにしたり、フェラチオやアナルセックスをパートナーに強要したりすることが起こっています。とくに最近のAVでは、女性が性的絶頂に達した時に「潮吹き」をするかのように描き出すものが多く、この「潮吹き」をさせようとして、傷つきやすい膣壁を指や道具などで乱暴にこすって、女性に激痛をもたらしたり、時に出血や膣炎を引き起こすというような事例が起こっています。
職場のセクハラでもポルノ被害の一端が示されています。職場にヌードカレンダーが貼られているとか、ポルノ雑誌などを見える場所に置かれているなどです。あるいは職場で頻繁にポルノ的発言をされるという場合もあります。これは環境型セクハラの一種として近年は認識され排除の方向に向かっていますが、それは同時にポルノ被害の一種でもあります。
子どもに対する性虐待においても、子どもにポルノを見せたり、子どもの裸を撮影する、あるいは子どもに自分で撮影させて送信させる、という事例も多数報告されています。また、児童ポルノを子どもに見せることで、子どもを大人との性行為に誘うこともなされています。
ポルノの押しつけによる被害は、今日のネット社会においては、電子メールやライン、ツィッターやフェイスブックなどを用いて、一方的にポルノ画像を相手に送りつけるという形でも生じています。とくに最近では、社会的に著名になった女性のツィッターやFBのアカウントに対してそうした性的画像を送りつけていやがらせをする事例も見られます。これもポルノ被害の一種です。
ポルノに起因する性暴力
ポルノの影響を受けた者がそれを真似て性犯罪を起こす事件は頻繁に起きています。2002年に福島で逮捕されたある少年による連続レイプ事件では、加害者の少年は小学生の頃からレイプもののAVを見つづけ、自分もレイプしたいと思うようになり、AVを参考にして犯罪計画を立て、十数人もの女性を実際にレイプしました。
警察庁のある研究機関の調査によると、強姦や強制わいせつで逮捕された容疑者553人を対象にしたアンケート調査で、33.5%が「AVを見て自分も同じことをしてみたかった」と答えています。少年に限るとこの割合は49.2%にまで跳ね上がります。
新聞記事を見ても、ポルノの影響を受けたことを加害者本人が供述している事件が非常に頻繁に起きていることがわかります。これらの事件は氷山の一角であり、多くの性犯罪がポルノを起因として起きています。痴漢ポルノ、強姦ポルノ、盗撮ポルノなどがとくに模倣されやすいジャンルです。
ポルノに起因する性暴力の存在を否定したがる人は、そもそもそういう性癖のあった人がポルノを観てそういう行動を起こしただけで、ポルノはきっかけになったにすぎず、原因ではないと言いたがります。まるで生まれながらの性犯罪者とそうでない人間がいるかのようですが、これほど非科学的な議論もないでしょう。またそういう性癖が存在していたとしても、ポルノを見続けることでそれが固定化され、助長され、実際の行為への強力な誘引になりうることは明らかです。