森美術館への抗議文

森美術館館長
  南條史生殿

  謹啓
 私たちは貴館において現在開催されている「会田誠展 天才でごめんなさい」に関して、以下の抗議文を提出するとともに、今回の展覧会に関して、貴館のご意見を直接おうかがいしたく話し合いの場を持っていただくよう強く申し入れします。

 貴美術館が現在公開している会田誠展において展示されている「犬」シリーズなどの一連の作品に対して、またそれらを公開している森美術館に対して、私たちは以下の強い抗議の意志を表明します。

 この「犬」シリーズで描かれている少女たちは、全裸で四肢を切断され(両手は手首より先が、両足は膝より先が切断されている)、その切断部分に包帯が巻かれた状態で、首輪をつけられ、四つんばいなどの姿勢をとらされ、作品名もずばり「犬」となっています。さらに、これらの作品の中で少女は微笑んでおり、このような性的拷問を楽しんでいるように、あたかもそれが自分にふさわしい扱いであるかのように描かれています。またこの「犬」シリーズ以外でも、少女が食べ物として体を開かれ、焼かれているもの、大量の少女ないし女性がジューサーの中でつぶされているもの、などが多数展示されています。

 これらはまず第一に、作画によるあからさまな児童ポルノであり、少女に対する性的虐待、商業的性搾取です。日本の児童ポルノ禁止法においては現在、実写ではない児童ポルノは違法とされていませんが、カナダ、EU諸国、オーストラリアなどの主要先進国においてはすべて、これらは違法な児童ポルノとして処罰の対象になっています。日本でもやがて違法とされるでしょう。このようなものを貴美術館は堂々と公開しており、これは少女に対する性的搾取に積極的に関与するものです。

 これらは第二に、少女=女性を全裸にしたうえで四肢を切断し首輪をつけて犬扱いしており、女性を最も露骨かつ暴力的な形で性的に従属させ、人間以下の性的玩弄物、性的動物として扱うものです。これは、描写を通じた性暴力の一形態であるとともに、すべての女性の尊厳を著しく傷つける下劣な性差別行為です。作者あるいは貴美術館はこのような表現を通じて社会の常識や権威に挑戦しているつもりかもしれませんが、実際にはそれは、少女および女性一般を性的に従属的な存在として扱っている社会の支配的価値観に全面的に迎合し、それをいっそう推進するものに他なりません。それは反権力どころか、権力の露骨な行使そのものです。

 第三に、これらの作品は、四肢欠損などの身体障がい者に対する差別と侮蔑の行為です。先天的であれ後天的であれ四肢ないしその一部を失っている人々を全裸にして犬扱いすることが許されるでしょうか? これのどこが反権威や反権力なのでしょうか? あなた方は、これらの作品を当事者が目にすることで、どれほどの深い衝撃と精神的ダメージを受けるかを想像したことがあるのでしょうか?

 第四に、このような二重三重に差別的で暴力的である諸作品を、森美術館のような、公共性をもった施設が堂々と公開し、宣伝し、多数の入場者に公開していることは、このような差別と暴力を社会的に公認し、それを積極的に正当化することであり、社会における少女の性的搾取、女性に対する暴力と差別、障がい者に対する侮蔑と差別を積極的に推進することです。たとえば、アメリカやヨーロッパの美術館で、四肢を切断された黒人が奴隷服を着て犬扱いされ、それを肯定するように微笑んでいる「作品」が堂々と公開されることなどありうるでしょうか? あなた方がやっているのはそういうことです。

 第五に、作品の中には、少女の局部をあからさまに描写しているものもあり、これは刑法のわいせつ物頒布罪ないしわいせつ物陳列罪にあたる可能性があります。これらの作品は18禁部屋として特設コーナーに入ってはいますが、広く公開されていることに何ら変わりはありません。また18禁コーナー以外でもキングギドラの頭部が女性の局部に挿入されている作品などがあり、子どもでも鑑賞することのできる状態で展示されており、これは青少年健全育成条例違反にあたる可能性があります。また、「犬」シリーズを含む諸作品は、森美術館の正式のホームページに掲載されており、それは何らゾーニングされておらず、子どもでも簡単にアクセスできるものです。

 私たちは、以上の観点から、森美術館による今回の展示に強く抗議するとともに、女性の尊厳を著しく傷つける諸作品の撤去を申し入れます。また、私たちは、森美術館の児童ポルノ推進的立場、その性差別性と性暴力肯定的姿勢、障がい者に対する差別推進の姿勢について、今後も広く世間に問題提起していく所存です。

 つきましては、森美術館としての考え方を直接おうかがいしたいので、1月下旬から2月上旬にかけてのいずれかの日に2時間ほどの時間をとっていただいて、話し合いの場をご設定ください。場所と時間帯はそちらにお任せします。ご連絡をお待ちしています。

2013年1月25日

         ポルノ被害と性暴力を考える会(PAPS)世話人
                横田千代子(婦人保護施設施設長)
                森田成也(駒沢大学非常勤講師)
                宮本節子(フリーソーシャルワーカー)
                湯澤直美(立教大学教員)

森美術館への団体抗議文英文団体抗議文2

森美術館の回答英文

森美術館の回答に対する見解英文

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