イーストプレス社の公式回答

ポルノ被害と性暴力を考える会
御中

弊社刊行予定のバクシーシ山下著「ひとはみな、ハダカになる。」の復刊刊行中止の申し入れとそれに付随する質問書について下記のとおり回答申し上げます。

また、貴会からいただいた資料などについて目を通させていただき、貴会の主張と運動のうち、幼児たちへの性被害の予防と救済については強い賛同の念を抱いたことを申し上げます。そうした個人的な感想をあえて吐露いたしたうえで出版社イースト・プレスの代表者として回答いたしましたことをお断り申し上げます。

1についての回答

  • 上記書籍が、弊社の定めましたイースト・プレス憲章の第1条、第3条、第4条、第6条と出版の社会的意義と両立するのかとのお尋ねです。この質問については、正直なところ理解に苦しみます。正直であること、敬意を払うという弊社憲章の箇条とどう矛盾するというのでしょうか。
  • 性衝動に青少年が苦しみ、対処法に悩みもがいています。一方で社会的にはポルノグラフィーが公然と存在し、種々の出版物やDVDが販売されています。青少年はいやおうなくそうした性の問題と性を商品化した生産物が存在する社会環境の下に暮らしています。
  • 上記書籍は、日本社会に公然と存在するポルノグラフィー、いわゆるアダルト映画の監督と製作をされているかたの著作物です。その現場に携わる山下氏がこういうふうにそれらの映画は製作されているのだよと読者に知らせています。そのどの部分が有害で、弊社憲章と両立できないと見なされるのか不思議な思いがいたします。
  • 青少年の読者がアダルト映画に興味を抱き、それをきっかけとして性の深く強い衝動や悩み、あこがれなど成長過程で社会の片隅でおこなわれている性関連の産業について理解を深める、あるいは考えをめぐらせることは、社会的有意義性がないと、出版人としては考えません。
  • 社会に歴然と存在するものを存在しないように隠しておくことのほうが有害だともいえます。
  • 想像するに、アダルトビデオの製作者が青少年向けの文章を執筆し、書籍として刊行すること自体が許せない、有害だとお考えのようです。
  • このとき、貴会の皆様は山下氏の執筆者としての表現の自由、また弊社の出版の自由を阻害する言辞をなしていることを忘れているようです。またそうした社会的にむずかしい問題に一石を投じるような出版の意義を無視しています。
  • 当初「よりみちパン!セ」シリーズは、全巻を朝日新聞出版で復刊する話が進行していました。弊社で復刊刊行するに至った経緯は省略させていただきますが、朝日新聞出版においても既刊全巻のうち山下氏の上記書籍を刊行しないという意思は皆無であったことを指摘させていただきます。
  • 貴会は山下氏の書籍を悪書として禁書・焚書するようなことをおこなっていると私は判断します。これは思想統制をおこなってきたナチズムや社会主義の全体国家のやりかたです。日本ではいかなる人物の出版物であっても刊行する自由は基本的人権のひとつとなっています。
  • 別紙にあるように上記書籍の編集意図を記した編集部の文章をお読みください。弊社では、上記書籍を悪書とも見なしていませんし、弊社憲章と抵触をしているとも一切考えていません。もとよりこの本によって青少年の性暴力を誘発するとも見なしておりません。

2についての回答

  • 全巻を復刊刊行する約定は弊社社内の間題であって、社会的な意義や普遍的な人権問題と無関係とご指摘なさっています。この貴会の見解には憤りを感じます。弊社社内の問題であっても弊社社外の問題であっても約定というのは守るべき社会的責任があります。
  • 「私」が集まって「公」をなしている事実をご存知ないはずがないでしょう。社会的な問題を扱う貴会のような団体が尊く、利益を求めて業務を遂行する弊社のような私企業は卑しいとお考えなのでしょうか。貴会に存在する無意識の傲慢と無知をさらけ出している質問でしかありません。
  • また、「女犯」を製作した人物の著作を再刊することについてのお尋ねについては、すでに1で回答したとおりです。
  • 女性の人権と平等、青少年の保護と権利についてのお尋ねです。これについては、女性と青少年、とくに幼児たちの権利や尊厳は、守られてしかるべきと考えます。また女性と青少年だけでなく等しくすべての人の尊厳と権利は保護されてしかるべきものです。
  • 貴会は山下氏の著作がそうした普遍的な価値と反するものだと決め付けています。弊社はそのように考えておりません。青少年や成人の読者に社会に歴然と存在するポルノグラフィーという問題を考える一助となっています。また、性の諸問題の中のある一面、あるいはアダルト映画に携わる製作者、監督、男優、俳優がどのような形でそうした映画と係わっているのかという事実を教えています。青少年や成人の読者がポルノグラフィーという現実の存在について向き合うことは有害なのでしょうか。
  • 各種のポルノグラフィーを見ることと女性や青少年の権利保護の考えは矛盾しません。
  • 山下氏のビデオを犯罪的と記しています。弊社はそのビデオの製作者ではありません。
  • またアダルト映画の製作者を弊社刊行物の著作者とすべきでないということも承服できません。1の回答で申し上げたとおりです。

以上が貴会の質問状にたいする弊社イースト・プレスの公式な回答書とします。
また、貴会は期限までに回答がない場合、NHKの取材を受ける予定があるので公表していくと書かれています。弊社に回答を迫る圧力と見なしているようですが、弊社は先日ご来社の折、回答をしますとお答えしました。約束は実行いたします。こうしたことも弊社の憲章に書かれている通りのことを日常的に守っています。
また、貴会が、弊社回答書について事実を捻じ曲げずにそのまま貴会の皆様へ報告・発表なさることは貴会の自由であって弊社はそのことを忌避したり怖れたりするものではありません。

2011年2月27日

株式会社イースト・プレス
代表取締役 小林茂(公印)

イースト・プレス社への要望書(2011年8月)

イースト・プレス社への質問状(2012年2月)

イースト・プレス社の公式回答(2012年2月)

「無制限のポルノ出版は正当化されるのか」(2012年3月)