性は人間にとって、生き方や人格を左右する重要な問題です。人間性豊かな性文化を創造し、実りある人間関係を築く力を養うために、人権的性教育が必要です。ポルノによる歪んだ性情報があふれる社会において、先に述べた人権擁護の立場から、両性の平等と性に関する適切な知識を学ぶことは、性の貧困化を食いとめる有効な手段の一つです。
包括的性教育とは
性を科学と人権、自立と共生の視点で捉え、学校だけでなく人生のさまざまな場面で総合的に対処できる「包括的性教育」の実践が強く求められています。
包括的性教育とは、人生のすべての性行動の選択場面に有効な性的自己決定能力の形成をめざす性教育のことであり、禁欲主義的・道徳主義的性教育とは対極にある実践方向をめざしています。包括的性教育は、以下のようないくつかの基軸を持っています。
このような観点に立つなら、女性を一方的な性欲処理の対象とするポルノは、包括的性教育が育もうとするセクシュアリティ観、女性観の対極にあるものと言えるでしょう。
各年代に応じた人権的性教育に向けて
高校生を対象とした調査によると、1990年から2008年までに高校3年生の性交経験率は5分の1から半数へと急増し、性交経験者の約3割が「性感染症予防と避妊」に必要な注意をしていませんでした。
子どもの性被害・加害経験の多さも深刻です。道徳的観点から性行動を一方的に抑制するのではなく、身近な性暴力への対応能力を高め、被害を未然に防止し、加害行為をさせないことが必要であり、発達段階に応じた「性の学習権」を保障することが重要です。
たとえば、幼児期には、嫌なことは「いや!」と言い、自分と他人の体と心を大切にできること。小学生では、性器と排泄器を理解し、両性の平等を学び、体のトラブルについて信頼できる大人に相談できること。中学生では、性交や避妊、性暴力の問題について具体的に学び、感染症の予防や性行動のコントロールができること、高校生では、性的自己決定能力を形成し、性情報の取捨選択能力を高めること。大学生以上では、性の多様性を正しく理解し、性的人権の保障と平和の文化を学ぶ機会が必要です。
そして、一定年齢(たとえば小学校高学年)以上では、ポルノ被害の問題についても理解し、ポルノ被害を防止するすべを学ぶ機会が保障されなければなりません。